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2010年11月11日 (木)

満足・・・ディレクターズ カット版

         男は右巻きのシングルハンドルを回しながら 《満足》 だった。

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                    『あなたはそれでいいの』

                        『いいって?』

                      『満足かって事よ』

                    『それは俺が決める事だ』

                           ・

                           ・

                           ・

                      『聞いてどうする』

                    『どうもしないわ・・・でも』

                       一呼吸おいて

                      『でも?  なんだ』

                その後 女が何と言ったか覚えていない。

                 時々だが、昔のたわいもない会話が脳裏をかすめる。

                  話自体のストーリーも覚えていない。

              しかし このフレーズだけは耳に付いて離れない。

                   別にどうって事ない女だった。

            時々飯を喰い、時々酒を呑んだり ただそれだけだった。

                 いわゆる 経緯(いきさつ)も曖昧で

            それ自体が男にとっての状況証拠をカモフラージュする

                   防衛本能だったのかもしれない。

                     男が 聞いてもいないのに 

                         『秘書よ』 

                         と言った。

              言った女の顔にはプライドめいた自信があった。

                        女の自信?

                 男は瞬間的な匂いを感じ獲っていた

           一般的にはフェロモンと称されている 《匂い》 であるが

        どこそこのブランドから新発売された 科学的なフェロモンじゃなく

               女の部分部分から発散される 《匂い》である。

          おそらくこの女の場合は、秘書という言葉を相手に発する事で

                    自信めいたエクスタシーを感じ、

             相手より優位に立とうとする自己顕示欲が旺盛になり

          この女にとっての最高のセックスアピールを放出するのだろう。

         昔 某国の元大統領夫人も自己顕示欲の塊だったと記憶している。

                  自分で言うんだから秘書なんだろう。

                ただそれがどうであれ男には関係ない事だ。

                  一度だけ 《聞いた?》 事があった。

              『秘書なんだからゴルフにも付いて行くんだろう?』

                       『ええ 行くわよ』

                     『大変だな。 持ち物は』

               女は きょとん とした顔で男を見ていたが

                   持ち物の意味が解ったらしく

               見る見る内に女の顔が真っ赤になっていく。

                    ウブだから赤くなったのか?

                  ズボシだったから赤くなったのか?

                その年で、前者であることはないだろう。

                 ≪おまえは、それで満足なのか?≫

               G-SHOCK 右上のライティングボタンを押す

                  横長の文字盤が淡いグリーンになり

                         【AM 3:26】

                 男は 『時間だな』 と、誰に言うでもなく

            背後にそびえる 広大なジグソーパズルに目を向ける。

               降りてきたパズルを 《チラ》っと見ただけで

                    すぐさま 左方向に頭を向け

                  目だけを左右ジグザグに動かした。

                    男のこだわりなのだろう。

                《来た道とは別ルート》 を選択している。

        両手をいっぱいに広げ 足を胸まで引き上げながら よじ登っていく。

                       1_img_4075

   安物のスパイクならピンが抜けたり ブーツの中で足が悲鳴をあげているであろう

        男はダイワのスパイクに 安心を預けながら しかも全力で登っていく。

             右のこめかみから 一筋の汗が“ツー”っと流れ

                もみ上げ辺りの脂肪のない皮膚を過ぎ

             少しだけ伸び始めたあごひげにかかったところで

                    次の汗が流れはじめる。

        男は 逆バンクテトラになりつつある手前で《小休止》の体勢をとる

            4面体の4脚ブロックに両足を絡め、両手を離す。

              その両手を引力に任せ 《だらん》 とさせる

                    胸を張って 《反る》 感じだ。

                    そして 一瞬 直腹筋を抜く

        すると股関節から上が 海面に引っ張られ一気に水平に近くなる

            男は40度に傾いたところで 全神経を腹筋に集中させ

                      直腹筋を起動させた。

                       反応は早かった。

           股関節から首にかけて ぶ厚い鉄板でも入ったかのように

                 《ピーン》  と、急に傾斜が止まった。

          相変わらず両手は 《だらん》 としたままブラブラしている。

             完全にテトラ側面から上半身を出した形になった。

                       5秒・・・10秒・・・

               そろそろ直腹筋が悲鳴を上げるころだ

            直腹筋は起動させたまま 《肺呼吸》 はしている

   30秒たったところで直腹筋よりも 胸鎖系の筋肉が先に悲鳴を上げ始めた。

             男は首を4・5回振り 両手を真上に上げ

                     テトラ先端を掴んだ。

               いよいよ 逆バンクへの挑戦が始まった・・・

                          ・

                          ・

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                          ・

         最後はテトラ側面に対し、少し張り出したところに両足をそろえ

                   堤防の上に両手を乗せた。

                  一呼吸置き・・・一瞬低くなった

                        次の瞬間

          肩甲骨から肩にかけての筋肉が異様なほどに盛り上がり

                                MAZUME REDMOON がキツそうにしている

                      スイッチを解除した

                圧縮されたスプリングが一気に開放し

         強靭な脚筋と大胸筋の力により 音もなく堤防の上に着地する。

                      呼吸の乱れはない。

               『わたしは・・・わたしは・・・満足じゃない』

              『そう だな・・・それはお前が決めるコトだ。』

         風が変わったのか 木蓮の甘い香りがない事に男は気付いた。

                    軽く汗をかいた体には 

                        ほんの少し

       そう   ほんの少しだけ  甘い香りが欲しかったのかもしれない・・・

      男は 満足だったはずの 今しがたの過去を 見つめようとしてやめた。

          一瞬風が吹いたが、探しているものはやはりなかった。

                  『あなたは それで満足なの?』

                    男は  誰に言うでもなく

                         『ああ』

 

                  初めて答えたような気がした。

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